ジオストーリーの扱い☆神話はジオパークの基本構想になる?
先月31日、読売新聞の記事で、島根県のくにびきジオパーク構想の話が載っていました。「くにびきジオパーク推進協議会」が結成されたとのこと。島根県と言えば、隠岐世界ジオパークがすでにあり、島毎にカラーが違うのも特徴で、私は西ノ島がとっても大好きです。
隠岐の活動が認められたのか、ジオパークが国内に増えていく中、島根県の本州側でも活動がスタートし、時々、ネットニュースに登場しています。
そんな中、私の目に留まった部分がありました。
◇「大国主命が中国古代王朝由来」 出雲大社権宮司「危うい説」
出雲大社の祭神・大国主命が中国古代王朝由来とする説が「くにびきジオパーク推進協議会」設立総会で出たのに対し、出席した出雲大社の千家和比古よしひこ・権宮司が「危うい説」と苦言を呈する場面があった。
小林祥泰・島根大特任教授がくにびきジオパーク構想の趣旨説明の中で、「朝鮮半島に逃れた中国古代の商王朝神官の末裔まつえいを、貴種を求めていた素戔嗚尊すさのおのみことが娘婿として出雲に招いたのが大国主命では」と仮説を挙げ、「歴史・文化の物語性を探る構想で、中国など東アジアとの交流、観光誘客につながる」と話した。
これに対し、千家権宮司は「危うい説が引き合いに出されている」と苦言。小林特任教授は「あくまで一つの説。物語性のある話題が、東アジアとの交流のきっかけになればという狙い」と理解を求めたが、千家権宮司は「物語性のために物語を作るべきではない。ひんしゅくを買うような飛躍はしないでほしい」と述べた。
大国主命は、古事記や日本書紀では、素戔嗚尊の子孫とされている。
(読売新聞:島根県版:2016年3月31日配信『神話の舞台 内外に発信』より抜粋)
今、ストーリー性が注目されています。テレビ番組でも新聞でもそうですが、商品のことを伝えるのに、商品の性能や原料を伝えるのでは無く、それを作り出した職人や関係者など「人の物語」を一緒につたえることで、消費者に「共感」して頂き、購入までのプロセスへと進ませるのです。プロジェクトXや情熱大陸、NHKのニュース番組の中でも、商品そのものでなく開発者にフォーカスしています。
商品だけでなく、観光もストーリー性が重視されています。ジオパークは特に、ストーリー性を重視している観光ツーリズムの分野といってよいでしょう。わかりにくい地形地質の専門的な話だけでなく、そこで営む方々の話を合わせて伝えて共感して頂き、別の季節に再訪を促すのです。
当該ネット記事の画面
この記事を読んでいて私が「?」となったのは、神話が趣旨説明の中にあるという点です。ジオパークでは科学的に語ることが第一義とされているからです。ジオパークに物語性を付けた「ジオストーリー」の定義はあるようで無かったため、今回の記事はそれを定義づけるきっかけにはなっているようです。
私のFacebookで交わされたコメントの中で注目したご意見は、地域活性化と地質遺産の保全はジオパークで繋がるけど、作り話でしかない神話を中心にジオパークをまとめることは、科学的な担保が無いため注意が必要で、根本は素材であるgeoheritage(ジオパークのみどころ)そのものにもっと目を向けなければいけないという意見でした。(全文はこちらを参照のこと)
「科学的な裏付け」というポイント
ガイドの時も、言い伝えがある場所は「〜と言い伝えがあるが」という風に必ず伝えますし、言い伝えでもとんでもない言い伝えは、ジオガイドの時には伝えないことにしています。例えば、「この島は奈良時代の大地震で、この島だけ、にょきっと40m隆起して出来た」ということが平気で戦後に編纂された町史に書かれてたりするんです。
観光客に分かりやすく伝えるということと、作り話や歪曲した話をジオストーリーとして観光客に説明することとは全く別です。他のツーリズムはともかく、ジオパークはそれをやっちゃダメだと私は思います。
神話をベースとするなら、世界文化遺産、日本遺産もあるような・・・?
私はジオツーリズムを民間の立場で活用しているので、ジオストーリーの在り方って事業を進めていく上で真剣に向き合っていきたいと思います。今回の事例がジオ研究者の間で、ジオストーリーの定義づけの研究に繋がればと思います。
今井 ひろこ
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