ガイドは時にファシリテーターに~但馬牛ツアー報告(3)
ツアーの続きです。牛舎を後にして、車で移動。次のポイント「うへ山の棚田」へ向かいました。日本の棚田百選に選ばれた、美しい曲線が印象的な棚田です。この時は雨が止み、風が谷を駆け降り、稲の緑がまるで絨毯のようにそよそよとしていて、とっても幻想的でした。
ここでは、放棄されそうだった田んぼを借り受け、米を作る活動「俺たちの武勇田」の話を含めて、小代ファンクラブ副代表で武勇田スタッフの小林さんが担当してくださいました。ここも実際の活動をもとに話をされているので、参加者との会話もとても弾みました。お客様は武勇田の活動の話など地域での取り組みから、ガイドの方がその地域でどのように関わっているのかを聞きたいんですよね。そういう話もとても大切だなぁとガイドをお願いしてみて思いました。
棚田の後は「但馬牛のレジェンド」田尻松蔵さんのお家へ。今の但馬牛、そして和牛の品質があるのは、この家で生まれた一頭の種牡牛「田尻号」(S14生まれ)がいたおかげです。
田尻号とその母牛ふく江を育てた田尻松蔵さん。小さいころから牛を見る目があったと言われ、一目ぼれしたふく江を多額の借金をして買って育て、ふく江4番目の子牛が田尻号だったのです。田尻号はその後、県に買い取られ、但馬牛の血統を遺すためのスーパー種牛として活躍します。今でこそ人工授精ですが、田尻号が活躍した戦前戦後の12年間のほとんどが自然交配で、全国で1500頭近い子牛を残しています。(人間だったらすごいことですね!)この田尻号により、素晴らしい肉質の血統が残されたからこそ、それまでの母牛の血統重視から、現在は国内で主流となっている、オス重視の血統作りの道へ。田尻松蔵さんの「牛づくり」そのものが「但馬牛のレジェンド」に値するのです。
田尻家は但馬牛を飼っていた民家の間取りがそのまま残されている、今となっては珍しい御宅で、マヤと呼ばれる牛を飼っていたスペースも残っています。民家の間取り図を見せながら説明すると、より一層、造りが分ります。今は牛がいないので物置にされていますが、田尻号の母ふく江がいたマヤには柵の痕などが残り、家族同様に飼われていた様子が垣間見えます。
田尻さんのお孫さん、田尻昇さん。お爺さまに風貌もソックリで、お話していても、素朴な中に温かさのある、小代特有の純朴さがにじみ出る方です。ちょっとシャイなところが人気の秘密のようです。お爺様と田尻号の話を伺うと、どんどん話が飛び出してきます。
それを引き出すのはガイドの仕事。自分で伝えるだけでなく、紹介する場所の関係者やズバリ本人が居られるのであれば、その方から話を引き出すファシリテーションの技術も求められます。ここは、ガイドが黒子となって、本人が参加者の思い出に残るように、小林ガイドはちゃんと役回りをされていました。今回の小林ガイドは田尻昇さんと同じ集落に暮らしているので、昇さんをよく知っています。それだけに心遣いも違います。
自分の暮らす集落の見どころを案内するって、特別な意味があると思います。住民の多くは当たり前すぎて、自分の集落の素晴らしい場所に気づきにくいもの。それだけに「景色が一望できる、自分が好きな場所」や、近所の住民との普段づきあいが垣間見えて、お客様はより楽しくなります。地元のガイドの方が自分の暮らす集落をガイドすることの大切さは、こういうところにも出てきますね。
田尻家の隣の八幡神社から、雨上り、山の緑が美しい小代の風景を眺めて、いよいよ自然の見どころ、要の滝へと見学は進みます。続きは明日!
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