アウェイな状況・・・一発逆転は「但馬牛」
昨日は日本海の魚介類と海底地形の関係についてのコラム記事の話をしました。それと同じようなことがほかの特産品でもいえるのではと思い、代表的な特産品である但馬牛についてすぐに調べ始めました。なぜなら2010年当時、山陰海岸ジオパークは海岸という名前が付いていたために、山間部の方には「山間部はジオパークとは関係ない」と思われていたのです。山陰海岸ジオパークは「海岸」という名がついていますが、南北30km、山側のエリアも含まれています。このアウェイの状況を一発逆転するには、但馬牛をおいて他にない!と。
但馬牛の資料館は新温泉町の兵庫県立但馬牧場公園内にあります。まずはそこへ行き、但馬牛にどういう歴史があり、どのように飼うのかなど、基本中の基本を知りました。大阪から来てその頃3年ほど経っていましたが、但馬で牛を見たことが無かった私。但馬牛は幻の牛、観光客から遠い存在なのです。
但馬牛は平安時代の書物に詳細に特徴が記載され、銘牛ベスト10入りするほどの牛です。昭和中期まで、但馬では主に農耕用として棚田などで使われました。1歳になるまで但馬で育てられ、その後神戸や松坂などへ売られて肥育され、やがて「お肉」になるのです。
但馬地方は高い山が連なって谷が深く、山を越えて隣の谷筋へ牛を出すことができず、その谷筋だけという限られた地域でのみ繁殖させていました。但馬の高い山は火山が噴火して流れ出た溶岩でできています。そのため、頂上付近はなだらかな場所や、中腹には大昔の地すべりで平らになった所があります。毎朝、牛飼いの方が牛を山裾の集落からそこへ上げて、夕方になると下すということをしていたそうです。
但馬は高山植物や平地植物が入り混じる植物の宝庫で、但馬高原植物園があるほどです。そういう潤沢な草を食み、山からの清らかな水を飲み、空気もよい。毎年産んでも健康な子供が生まれる、それが但馬牛の特徴の一つでもありました。そして冬は2mもの雪が積もります。但馬牛は人の住む家と同じ住居で家族のように育てられ、厩(うまや)でじっと春が来るのを待っています。人間もじっとしていれば太るのと同じく、牛も同様で、このときにサシ(脂)が入るのです。
今の話を読んで頂いて、但馬地方の雪深く、そして緑豊かな自然と、山と谷が織りなす地形が、平安時代からの歴史ある但馬牛を育てたことがわかって頂けたと思います。それがジオパークのいう「大地と人々の暮らし」です。
実は順調に続いてきたわけではなく、明治時代には外国産牛と繁殖をするなど、純血の但馬牛は絶滅する寸前になったこともあるのです。それを救ったのも但馬の畜主でした。わずか4頭の純血但馬牛から、但馬牛の歴史は再び始まり、昭和の初めに君臨した日本のキング牛「田尻号」のDNAが、現在日本にいる黒毛和牛の母牛の99.9%に存在する、つまり、今の黒毛和牛の殆どは田尻号の血、但馬牛の血を引いているのです。それってすごくないですか?!
私は但馬牛の本で学んだほか、地元の畜主さんや肉屋さん、牛の獣医さんにこれらの話を伺うことができました。但馬牛の歩んだダイナミックな歴史も合わせて、風土を知ることがジオパークの醍醐味であり、地元に行かなければわからなかった、自分だけが知り得たというワクワク感でもあります。
地元の方に但馬牛の話を聞いた、私のような経験を、ほかの観光客に対してもぜひお話して頂きたい。そう思って、地元住民向けの出前講座や、ブランド牛のいるジオパークでは「ジオパークの恵み」として但馬牛の話をするようになりました。

今井 ひろこ


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